Medicare改革法の企業への影響

  1. 企業が提供する医療保険プランへの一般的影響
  2. 処方薬保険 (Medicare Part D)
    1. 全体像
    2. 標準的な保険プラン
    3. 退職者医療保険プランへの連邦補助金
  3. 健康貯蓄勘定(HSA)
  4. 退職者医療保険プランと年齢差別禁止法
  5. 財務諸表へのインパクト


    1. 企業が提供する医療保険プランへの一般的影響

      1. 処方薬保険プラン(Medicare Part D)が、Medicare加入者である退職者の処方薬コストをカバーすることになるため、退職者医療保険プラン(以下「退職者プラン」)の加入者がPart Dに加入すれば、退職者プランの負担は軽減されることになる。

      2. 退職者プランは、加入者に代わって、Part Dの保険料を負担することができる。

      3. 退職者プランの加入者がPart Dに加入しない場合は、一定の条件のもと、退職者プランに連邦補助金が支給される。


    2. 処方薬保険 (Medicare Part D)

      1. 全体像

        1. Medicare加入者がPart Dに加入するかどうかは任意。

        2. 低所得者層への補助あり。

        3. Part Dの運営は、民間の単独プランまたは複合Medicareプラン("Medicare Advantage")により行われる。

        4. 2004、2005年は、過渡的措置として割引カードプログラムが実施され、2006年1月1日より、正式にPart Dが実施される。


      2. 標準的な保険プラン

        段 階Part D 標準プランにおける自己負担額備  考 (管理人による注)
        免責額
        (Deductible)
        $ 250処方薬コストが$250に達するまでは、全額加入者負担。
        第一保障段階
        (Initial Beneficiary Cost Sharing)
        処方薬コスト$251〜$2,250までの25%を加入者が負担加入者が購入した処方薬の総額が$2,250に達するまでは、「処方薬総額-$250」の25%を加入者が負担、75%を保険プランが負担。
        全額負担段階
        (Beneficiary-Pay-All Gap)
        処方薬コスト$2,250〜「本人負担(b.)」$3,600は全額加入者が負担処方薬コストが$2,250を超え、「本人負担(b.)」が$3,600ドルに達するまでの処方薬コストは、全額加入者が負担する。処方薬コストを抑制するための措置と考えられる。
        危機的段階
        (Catastrophic Coverage)
        「本人負担」$3,600超の5%を加入者が負担。低所得者層には軽減措置あり。重病等で必要な処方薬が異常にかさんだ場合の危機対応措置。

        1. 各数値は年額。Medicare加入者一人当りの処方薬コストの増加率により増額。

        2. 「本人負担(out-of-pocket expenditures)」とは、処方薬コストのうち、加入者本人が負担した総額で、保険料は含まない。退職者プランその他民間保険プランによる償還額は含まない。仮に、退職者プラン等に加入していなければ、処方薬コストが$5,100(*)に達した段階で、危機的段階の措置が手当てされることになる。逆に、退職者プランによる償還(負担)があれば、その分だけ本人負担が減るので、危機的段階に達するまでの処方薬コストは$5.100を上回ることになる。
          (*) $5,100 = $2,250 + [$3,600 - $250 - ($2250-$250) x 25%]

        3. 従って、保険料を含む実質的な本人負担とPart Dプラン負担の内訳(退職者プラン等に加入していない場合)は、次の通りとなる。ただし、保険料を$420/Y(=$35/M)を想定している。

          処方薬コストの総額本人負担額(含む保険料)(割合)Part Dプラン負担額(割合)本人負担額の計算式(管理人注)
          $500$733 (147%)-$233 (-47%)$420 + $250 + ($500-$250)x25%
          $1,000$858 (85.8%)$142 (14.2%)$420 + $250 + ($1,000-$250)x25%
          $1,500$982 (65.5%)$518 (34.5%)$420 + $250 + ($1,500-$250)x25%
          $2,000$1,108 (55.4%)$892 (44.6%)$420 + $250 + ($2,000-$250)x25%
          $2,500$1,420 (56.8%)$1,080 (43.2%)$420 + $250 + ($2,250-$250)x25% + ($2,500-$2,250)
          $3,000$1,920 (64.0%)$1,080 (36.0%)$420 + $250 + ($2,250-$250)x25% + ($3,000-$2,250)
          $3,500$2,420 (69.1%)$1,080 (30.9%)$420 + $250 + ($2,250-$250)x25% + ($3,500-$2,250)
          $4,000$2,920 (73.0%)$1,080 (27.0%)$420 + $250 + ($2,250-$250)x25% + ($4,000-$2,250)
          $4,500$3,420 (76.0%)$1,080 (24.0%)$420 + $250 + ($2,250-$250)x25% + ($4,500-$2,250)
          $5,000$3,920 (78.4%)$1,080 (21.6%)$420 + $250 + ($2,250-$250)x25% + ($5,000-$2,250)
          $5,500$4,040 (73.5%)$1,460 (26.5%)$420 + $250 + ($2,250-$250)x25% + ($5,100-$2,250) + ($5,500-$5,100)x5%
          $6,000$4,065 (67.8%)$1,935 (32.2%)$420 + $250 + ($2,250-$250)x25% + ($5,100-$2,250) + ($6,000-$5,100)x5%

        4. 仮に、保険料、本人負担分の50%を償還する退職者プランに加入している場合、危機的段階に達する処方薬コストは$8,700となる(管理人試算)。


      3. 退職者医療保険プランへの連邦補助金

        1. 退職者プランが「適格な」処方薬保険プランを提供している場合、Part Dプラン加入資格がありながら加入しない者については、連邦補助金("reinsurance subsidies")が支給される。

        2. 補助金額は、個々の退職者プラン加入者に関わる処方薬コストのうち、$250〜$5,000部分の28%相当。

        3. (事例) 免責額$0、本人負担分20%の退職者プランで、加入者Aが年間$6,000の処方薬を購入した場合、退職者プランの支払額は$4,800となる。しかし、補助金対象額は$250〜$5,000部分、つまり$4,750だけであり、この$4,750のうち退職者プランが負担した金額は$3,800(=$4,750x80%)となる。連邦補助金は、その28%なので、$1,064(=$3,800x28%)となる。

        4. 「適格な」退職者プランとは、『上記の標準的なPart Dプランと数理的に同等である』と定義されている。詳細は2006年までに所管官庁が決定する。

    3. 健康貯蓄勘定(HSA)

      1. 2004年から、健康貯蓄勘定(Health Savings Accounts, HSA)を導入する。

      2. 高額免除額プランをカバーすることを目的とする。年間免除額が最低$1,000(家族保険の場合は$2,000)で、本人負担上限額が年間$5,000(家族保険の場合は$10,000)以下のプランを対象とする。

      3. 加入者個人または企業の拠出限度額は、保険プランの免除額と同額とする。ただし、HSAへの拠出額と既存のMSA(Medical Savings Accounts)の拠出額の合計額の上限は、現行MSAの上限額$2,600(家族保険の場合は$5,150)(2004年)とする。

      4. 2004年の開始時点で、55歳以上の個人は、上記限度額に加えてさらに$500を拠出できる。この追加拠出額は、毎年$100ずつ増加し、2009年以降は$1,000とする。

      5. Medicare加入資格を得た時点で、HSAへの拠出は認められなくなる。

      6. HSAは、免税信託基金に設けられなければならない。個人のHSAへの拠出額は所得控除され、企業拠出は所得に算入しない(つまり免税ということ)。MSAからの資金移換も可能とする。

      7. HSAから支払われた適格な医療費支出は、所得して算入しない。一般的に、Medicare加入資格を得るまでは、保険料は適格な医療費支出として認められる。

      8. Medicare加入資格を得た後、HSAからの医療費支出は、Medicare Part A、Bの保険料、退職者プランの保険料に充てることができる。

      9. 目的外支出には、所得税が課税されたうえに、10%のペナルティ・タックスが課税される。

      10. HSAへの企業拠出は、全従業員について、類似の高額免除額プランを対象とし、同率または同額など、公平な拠出フォーミュラを用いなければならない。この原則に抵触した場合には、実際の拠出総額を対象に35%の超過課税(excise tax)が企業に課される。

      11. FSA、HSAが、医療機関への直接支払手段としてデビット(銀行口座からの直接引き落とし)、クレディットその他を利用する場合においても、FORM 1099(支払元証明書、IRSの様式)を発行する必要はない。

    4. 退職者医療保険プランと年齢差別禁止法

      2002年、控訴裁判所は、「非Medicare資格者のみを対象とした退職者プランは年齢差別禁止法違反である」との判決を下した(Erie County事件、「年齢差別禁止法と退職者医療保険 (2002/7/18)」 (PDF) 参照)。今回の両院協議会における審議過程で、両院協議会メンバーは、年齢差別禁止法制定の経緯を再検討し、Medicare加入資格者と非資格者の間に区別を設けることは年齢差別禁止法の許で認められる、との結論を示した。しかし、その法的効力がどの程度あるのか、不明である。


    5. 財務諸表へのインパクト

      Medicare改革法は、企業の財務諸表にかなりのインパクトをもたらす。退職者プラン加入者がMedicare加入を選択しなかった場合、連邦補助金が支給されるため、企業の給付債務は軽減される。さらに、処方薬をカバーすることになったことに対応して、退職者プランを廃止してしまえば、さらに給付債務は減少する。